それでもプレインズウォーカーは悪くない
「精神を刻む者、ジェイス」がスタンダードで禁止になったことで、「いいぞ、もっとやれ。ついでにプレインズウォーカーのシステムもやめちまえ」みたいな発言をみかけました。
もちろん半ば冗談で書いているんだろうけど、神話レアの価格の高騰と相まってこれまでにもそういうことはあちこちで言われていたし、たぶんこれからも言われるんだと思います。

でも、それはちょっと違うんじゃないかと思うので、それについて書きます。

自分は、プレインズウォーカーのシステムこそが、マジックの魅力を一段上に引き上げたと思っているし、もっといえばマジックの寿命を10年伸ばしたと思っています。

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トレーディングカードゲームを息の長いビジネスにし、カルチャーにまで育てようとする場合、以下ふたつの条件の達成が不可欠です。

1)新しいカードは、常に強くて魅力的
2)古いカードも、常に強くて魅力的

1の条件だけを達成するのは簡単。でもその代わり、古いカードはどんどん紙くずになります。そうすると、古いプレーヤーが過去のカード資産を生かせなくなることで消費者は市場に戻ってきづらくなるし、現役プレーヤーたちも「この新しいカードもすぐ紙くずになるんじゃないか?」という疑念を持ち始め、結果として市場には誰も残らなくなり、ゲームが衰退してしまいます。あと、強いカードが出過ぎるとルールとしても破綻しちゃうしね(そういうトレーディングカードゲームもいっぱいあるよねw)。

ではどうやって2の条件も同時に達成したらいいのか?

はっきり言って難問。矛盾にすら思えます。でも、このふたつのバランスを取ることが、トレーディングカードゲームを息の長いビジネスとして成立させ、カルチャーにまで育てるうえで一番大事な部分であり、開発部の腕の見せどころだと思います。

そのためのルールやシステムの工夫は随所にあると思うんだけど、なかでもプレインズウォーカーというシステムはすごかった。

時のらせん~ローウィンのときにはすぐわからなくて、ローウィン~アラーラぐらいでやっとわかったんだけど、気づいた時には本当に感激した。ウィザーズの開発部ってば頭良すぎるだろう、と。

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それがなにかというと、まず1の条件を充たすために、過去のカードよりパワー/タフネスが高くて軽いクリーチャーがどんどん発売されていきますよね(例えば「野生のナカティル」。でもライフは20点のまま……。このままだといつか、コンボでもない普通のビートダウン同士でも瞬殺があたりまえの殺伐とした環境になってしまいます。

だからといって、ゲームスタート時のライフの総量を30点に改正するわけにもいきません。それによって、これまでに発売されたコントロールよりのカードの評価が一気にあがり、ビートダウンよりのカードの評価が一気にさがり、市場の混乱と信頼の低下を起こしてしまいます。

そこでプレインズウォーカーが果たした役割というのは、ライフの総量を変えることなく、でも実質的にライフの総量を変えることに成功した、ということだと思います。

プレインズウォーカーの存在を無視してライフを攻めてもいいけど、大技まで到達すると負けちゃうよ、という絶妙な能力のバランスによって、対戦相手は実質的にプレインズウォーカーを無視できない。すごいアイデアだと思いませんか?

一般的に言って、ライフが増えて一番得するのはコントロールだけど、赤にはコス、緑にはガラク、というようにビートダウンに向いた能力をもったプレインズウォーカーが用意されているのも素晴らしい。

つまりプレインズウォーカーの登場は、新しい強力なクリーチャーがゲームのルールを歪めてしまうこと防ぎ、それによって古いカードの評価が根本的に変わってしまうことをも防いだ、と言えるんじゃないかと思います。

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あと付け加えるとすると、以前のマジックには萌え要素がなかった。私としてはなければないでもいいと思ってたんですが、ポケモンカードのプレーヤーに「思い入れの余地が少なくて寂しい」なんてことを言われたりもして、それはたしかにごもっとも、とは思ってました。特定の好きなカードがあっても、2年で入れ替わっちゃうしね。

でも、プレインズウォーカーというキャラクターの登場によって、それが満たされる(かもしれない)と思います。少なくとも、開発部はそういうつもりで作っているそうです(昨年の千葉の世界選手権のサイドイベントのQ&Aコーナーで言ってました)。

たとえば、今年マジックを引退した人が5年後に再開しても、きっと、ジェイスやガラクやギデオンなどおなじみのプレインズウォーカーは、再録なり新録なりでかたちをかえてトーナメントシーンに居続けると思う。そのことで、一度マジックに触れたファンがいつでも戻ってきやすくなる。そういう効果もあると思う。

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というわけで自分は、プレインズウォーカーのシステムこそが、マジックの魅力を一段上に引き上げたと思っているし、もっといえばマジックの寿命を10年伸ばしたと思っています。

「精神を刻む者、ジェイス」が禁止になったことで個人としてもショップとしても悲喜こもごもあるかもしれないけれど、トータルでいうとプレインズウォーカーというシステム自体は、気づきにくいけれどものすごい大成功だと思うので、ちょっとした失敗くらいは大目にみようぜ、という話でした。

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ちなみに、自分のiPhoneの壁紙は「精神を刻む者、ジェイス」です。禁止されて悲しいけど、禁止されるほど強くて嬉しいという、複雑な気分。M12でジェイズ・ザ・サードの収録を期待してます。

コメント

nakakou
2011年6月21日10:17

コメント失礼致します。もっともだと思い、コメントさせていただきました。素敵な文章ありがとうございました!

ビブリオン
2011年7月5日22:54

はじめまして、自分最近のPWは長く場に残り過ぎると考えていたのですが、なるほどこういう考えで作っているなら納得できるところもあるなと思いました。
リンクさせていただきます。

nophoto
nyx
2016年1月13日1:22

仰るとおりPWは擬似的なライフ、あるいは壁として機能していると思うのですがそれがプラスの面だけとは思いません。

まずレアリティが非常に高く高価になりがちで互いのプレイヤーがPWを自由に使えるという前提は成立しにくいです。(簡単だよ成立するよという方は既に金銭感覚がマジックに侵食されている可能性が高いです)有効な対策カードの一つである”戦慄掘り/Dreadbore”にはレアリティがレアであることについて”神話レアであるプレインズウォーカー自体の希少性(低レアリティのカードのルール文章中に、初心者プレイヤーにとって馴染みのない用語が登場するのは望ましくない)を考慮したものである(MTGwikiより引用)”という経緯があるようです。

初心者だって勝ちたいに決まっている、ですがPWはカードパワーが高い上にレアで高価で対策が取りづらいというのが現状でしょう。マジックの行く末を考えるのは結構ですが、プレイヤーがそんなことを考える義理はない……。

なので私個人としては、
・PWはゲームプレイの幅を広げも狭めもしている、商業主義に走ったわけではないというなら、低レアのPWでも出してみろや(゚Д゚)ゴルァ!
といったところでしょうか。

長文失礼しました。

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